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1217号 出入計算法

2017年04月19日(水)

 囲碁の勝負には、終局に至るまでの終盤の局面に「ヨセ」という分野がある。黒と白のどちらがその地点を手に入れるかによって、最終局面の互いの地の収支が変わるために、その着手の前後や選ぶ場所によって勝負に決定的に影響すると言われている。
 布石や定石、筋・形などには興味を持っても、ヨセは地味であり計算も面倒だから、アマチュアには敬遠をされる。自分もヨセの手法については、まったく学習したことはない。

最近、韓国棋院による囲碁ドリル決定版「囲碁初級編4」(棋苑図書 2010年)を眺めていたところ、ヨセの大きさ並びにそのヨセが何目の大きさに当たるかの解説のところに出会った。
 たとえば、その場所に黒から打つと黒地が8目増え、逆に白から打つと白地が2目増えるという箇所があるとする。このとき黒から打つ場合と白から打つ場合の出入差は10目となり、この10目が1手の大きさとなり、黒にとっても白にとっても10目のヨセとなる。これを1手の大きさを計算する「出入計算法」と呼ぶらしい。(という解説である。)
 これを読んで、漠然とこれまで考えていた考えを改める必要を感じ、誤解をしていたことに気が付いた。今例に挙げたこのヨセに関して、黒にとって8目の得、或いは8目の得と2目の損の差つまり6目の得になるヨセであるという誤解である。 まず、互いの差を加算しないで一方から差し引くという誤解、もう一つは黒にとって大きい場所だから一方的に有利なヨセであるという誤解である。
 つまり、黒から打つと8目の得(黒が8目増える)のところが、白から打たれると2目の損(白地が2目増えるから)になり且つ8目の得も失うので、都合10目の損得になるという計算なのである。
 そしてここからがやや飛躍した話題になるのだが、この囲碁のヨセの出入を見て、大都市と地方との間の最近の人口移動の問題と、どこか類似点があるように感じたのである。むしろこれを言いたくて囲碁の話を先に書いたといってもよい。
 まず毎年3,000人の若者が東京流出する県があるとする。もしこの流出をすべて避けることができるときは3,000人のプラス、手を打たずに東京に3,000人流出することを許してしまうと逆に3,000人のマイナス。これはヨセの出入計算法でいう彼我の勢力は都合6,000人のヨセとみなしうるか(?)。
 レスター・サローの「ゼロサム社会」は、経済成長が停止して、ある人の取り分が増えると他の人の取り分が小さくなるような社会を表現している。しかし、この経済学モデルは囲碁のヨセの計算式ほどには数学的な明瞭性を欠くように思う。

(2017.3月末 記)