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イッセイエッセイ

1255号 幸(さきは)ふ越前の国

2017年07月26日(水)

 「宇治拾遺物語」の説話舞台の地理的分布は、197話中、洛中が約130話であり、地方や外国(もろこし、新羅、天竺)の話は意外と少ない。その中でも地方としては越前国の話が最も多く、いずれも幸福や霊力に関係のある舞台として登場する。十二世紀末から十三世紀前半(院成期末~鎌倉期初め)の時代、おそらく京の都からみて、越前国は近からず遠からず、風土も畿内とはやや異なり、地味も豊かでゆかしげな所、としてつとに認識されていたのではないかと想像したい。

18話 利仁(としひと)、芋粥のこと
 「いづら湯は」といへば、「まことは敦賀へ率(い)て奉るなり」といへば・・・

 敦賀の地方豪族の婿としての利仁の豪勢な財力を示し、本物語中屈指の名作。 

36話 山伏、舟祈り返す事
 これも今は昔、越前国甲楽城かぶらぎわたりというところに、渡りせんとて者ども集まりたるに山伏あり。

 慶頭けいとう坊という山伏が河野海岸の渡しで船を覆させかける経験の驚嘆事。

108話 越前敦賀の女、観音助け給ふ事
 ありし妻に似たらん人をと思ひて、やもめにて過しけるが、若狭に沙汰すべき事ありて行くなりけり。昼宿りゐる程に、片隅にゐた所も、何の隠れもなかりければ「いかなる者のゐたるぞ」と覗きて見るに、ただありし妻のありけると覚えければ、目もくれ心も騒ぎて、「いつしかとく暮れよかし、近からん気色も試みん」とて、入来たるなりけり。

 日頃より信仰を向けてきた観音様が召使の娘役となって現われ、信心深い女主人に一夜を宿した「勢徳ありける者」と結ばさせる観音利生話。若狭も関連して登場。

148話 高忠(たかただ)の侍、歌詠む事
 今は昔高忠といひける越前守の時に、いみじく不幸なりける侍の、夜昼まめなるが、冬なれど、帷をなん著たりける。雪のいみじく降る日、この侍、清めすとて、物の憑きたるやうに震ふを見て、守、「歌読め。をかしう降る雪かな」といへば、・・・「はだかなる我が身に懸かる白雪はうちふるへども消えせざりけり」と詠みければ・・・

 国司夫妻が戸外の雪かたづけに当る老侍に歌を詠ませて、貧しい侍に着物を与えてねぎらう歌徳説話。

192話 伊良縁野世恒(いらえのよつね)毗沙門御下文(びしゃもんおんくだしぶみ)の事
 今は昔、越前国に伊良縁の世恒といふ者ありけり。とりわきてつかうまつる毗沙門に、物も食はで、物の欲しかりければ、「助け給へ」と申しける程に・・・

 毘沙門天(北方の守護神、福徳の神、吉祥天の夫)に祈って、長者になるという致富由来譚。

 そのほか41話(伯の母の事)には、越前守・高階成順(注は筑前守かとある)に係わる話あり。説話に登場するその他の土地の地名(回数なしは1回)は、以下の通りである。
 丹波、佐渡(2)、比叡山(4)、肥前、伊勢、常陸、因幡、尾張、甲斐(2)、能登、丹後、奈良(吉野)(5)、土佐(2)、三河、播磨(2)、信濃、筑前、美作、安芸、上総、築紫(2)、備中、美濃(伊吹)、陸奥、唐(16)、新羅(3)、天竺(8)。

(2017.7.17(月) 三連休最終日に記)