西川一誠後援会サイト

イッセイエッセイ詳細

イッセイエッセイ

1281号 雑想(24) 感想文(引用など)

2017年12月05日(火)

○『トロイ戦争は起こらない』1935年 ジャン・ジロドゥ作(岩切正一郎訳)ハヤカワ演劇文庫 2017年)

 第二次世界大戦前夜のヨーロッパ、そしてこれにギリシア神話、影の深いトロイ戦争の世界を重複させながら、大戦を反リアリズムの手法を駆使して虚構にみちた想像力によるドラマの世界を演出している。とくに歴史や伝統文学をアナクロリズムでもって脚本上で時間的に転倒させたり、さらに自己の経験を反映させたりしているのである。
 登場人物はトロイの王子ヘクトール、妻アンドロマケ、妹の予言者カサンドラ、スパルタの王妃ヘレネなど有名なキャラクターの対話が中心であるが、むしろ彼らの人物像が混然として明瞭でなくなっており、逆に脇役の連中、トロイの政治家詩人や法学者あるいはギリシア隊長の方は、芝居懸っていているので性格や主張が分かりやすい。
 以下、いくつかの対話、とくに戦争(トロイ戦争に仮託した第一次と、第二次大戦)への危機に関するところ。

アンドロマケ――運命ってなに、知らない。
カサンドラ ――教えてあげる。単に時間のとまった形よ。恐ろしい。                        
           (第一幕一場)

へカベ(トロイ王妃)――それとも、老人だけで戦っておけばいいのよ。国はどこだって若者の国。若者が死ぬときは国も死ぬ。
デモコス(元老院長、詩人)――若者若者ってもううんざりです。三十年もたてば若者も年を取る。                  (第一幕六場)

デモコス――<…>戦争では、兵隊が武器を磨くだけで十分ではないからです。戦意をいやがうえにも高揚させなければなりません。<…>そこには、われわれ詩人が注ぎ込む精神的な陶酔が伴っていなくてはならないのです。寄る年波のために戦いに参加できないわたしどもではありますが、せめて戦いを容赦ないものにする役に立とうではありませんか。<…>                     (第二幕四場)

再度デモコス――<…>戦争が無い間は、門が閉まっている間は、誰でも好き勝手に戦争を侮辱し、罵倒できます。平和な時に何を言われても柳に風です。けれど、いったん姿を現わすと、戦争は傲慢さをむき出しにする。戦争に気に入ってもらい、勝つためには、戦争におべっかを使い、優しく撫で回さなくてはなりません。この時です、言葉に秀でた者が使命を果たします。<…>       (同幕同場)

ビジュリス(法学者)――オフェアは敗れました。今ではオフェアもオフェア人も存在しておりません。
エキューブ(トロイ王妃)――結構なこと。
ビジュリス――国は消滅しましたが、国際的には、モラルの面での優位は不動です。                               (第二幕五場)
      (注)オフェアとは、ギリシアに敗北した架空の都市。

ヘクトール――<…>だが、今日、君たちに言っておきたい。戦争は人間を平等にするための最もあさましく、最も偽善的なやり方だ。わたしは、死を、卑怯者にたいする懲罰や卑怯者の罪滅ぼしとして受け入れるつもりはない。英雄への報償として受け入れるつもりもない。<…>                                                                                             (同幕同場)

○『スペリングの英語史』サイモン・ホロビン著 2013年(早川書房 堀田隆一訳)

 日本語と異なり、英語は発音と綴字が協調しながら分裂してゆくのでスペリングの不合理と伝統的・歴史的意味付けの間でたえず矛盾を生んでいる。
 本書の第8章<スペリングの現在と未来>から以下。
 電子媒体上に現れる“省略スペリング”の例。
 2moro
(tomorrow), 4ever (forever), gr8 (great),cu (see you,またね), btw (by the way),
imho (in my
humble opinion, 私見によると),omg (oh my god,たいへんだ), pls (please),
txt (text,メールする),
thx (thanks).
 著者が例示するこれらスペリングの規則に反したデジタル的省略形は、伝統主義者たちを憤慨させる種であるが、一方で、決して規則的な伝統的スペリングがないがしろにされていることを示しているものでもなく、教育水準が下がっている証拠もない、と著者は述べる。

○『コトラーのマーケティング4.0』――スマートフォン時代の究極法則(朝日新聞出版 2017年)

 以下は本書の中から若干のキーワード。
 ブランドの魅力があって“誘引力がない”/ブランド発のマーケティング・コミュニケーションを顧客がますます警戒する時代/<オンライン交流>対<オフライン交流>/
認知→訴求→調査→行動→推奨(5A)/ブランドの認知率と推奨率の違い/ブランドはますます“人間的特性”を取り入れるようにする必要がある/顧客の購入活動を“カスタマー・ジャーニ”として捉える/

(2017.11.24 記)