【トピックス】

平成15年11月21日(金)付け
日本工業新聞に掲載

座談会 福井からの提言  
  福井県知事 西川一誠氏
  福井大学学長 児嶋眞平氏
  福井工業大学学長 三宅正宣氏
  関西電力常務取締役 佃 郁朗氏


 エネルギー輸入国・日本にとって原子力発電は不可欠のエネルギーといえる。
安定供給が図れ、世界的な課題である地球温暖化防止の観点から見てもクリーンなエネルギーとして評価されている。
この原子力発電でわが国最大の立地県・福井県は、原子の火が灯って以来三十三年、"安全・安心"の問題に恒常的に取り組むとともに、原子力と共生する産業の振興を目指しているが、その福井県でいま新たに産学官の連携による「アジアにおける原子力の安全教育・研究の拠点づくり」が始まろうとしている。
ここでは産学官を代表する方々に参加していただき、その背景、今後の計画などを話し合ってもらった。

――最初に、日本のエネルギー事情についてどのようにお考えかお聞かせください。

 西川 日本のエネルギー自給率は二〇%。言い換えれば八〇%は海外に依存している。さらにそこから国産エネルギーの原子力を差し引くと海外への依存率は九四%にもなる。先日、ノーベル物理学賞受賞者の小柴昌俊先生(東大名誉教授)が福井県に来られエネルギー問題について教えていただく機会があった。
その際先生は『日本のエネルギーは原子力なくしては考えられない。
政治の指導者、あるいは科学技術を研究するリーダーはもっと国民に分かってもらう努力が大切』といわれた。私も同感で、エネルギー自給の観点から、またもう一つの大きな課題である地球環境保護の観点からも、安全運転を大前提に、クリーンなエネルギーである原子力は重要だと考えている。

 児嶋 私もわが国のエネルギーのベースは原子力だと思う。
ウランは有限で今世紀中にはなくなるといわれているが、二十一世紀は原子力に頼らざるを得ないのではないか。
世界的に取り組みが求められている地球温暖化防止の面からも、原子力は二酸化炭素(CO2)の発生を伴わないクリーンなエネルギーとして基幹電源に位置付けられてしかるべきだ。
もちろん、代替エネルギーとして核融合の研究が進められ、また太陽光発電、風力発電といった新エネルギーの開発も大切で、これはこれで進めていかなければならないが、核融合は今世紀中の実現は難しいのではないかと考えられるし、新エネルギーも供給量を考えるとやはり根幹となるエネルギーではない。
やはり原子力ということになる。

 三宅 わが国では、エネルギーの大切さが真剣に考えられていないのではないかと心配している。
食糧は個人にとってはそれがなくなると生死の問題に直面するから大事だが、実はエネルギーもなくなると国家、社会、個人すべてが存在し得なくなる。見方によっては食糧以上に重要なものだ。また、わが国はエネルギーの九〇%以上を海外から輸入しているわけだが、輸入のためには膨大なお金を必要としていることも忘れてはいけないし、輸入の際のリスクもある。福井県・三国沖で起きたようなタンカー事故によるオイル流出はその典型だ。そういう意味で、基幹エネルギーとして、自給でき安定供給が可能な原子力にウエートを置くことは今後も続くだろう。

 佃 原子力を除くと、日本のエネルギー自給率は六%になる。
日本は三十年前のオイルショックの経験から、当時七〇%を占めていた化石燃料の比重を減らす、いわゆる"脱石油"に取り組んだ結果、現在化石燃料の割合は五〇%まで低下してきたが、その代替エネルギーとして大きな役割を果たしているのが原子力で、現在日本のエネルギー全体の一四%、発電電力量では三五%を占めるにいたっている。
原料のウランはこのまま軽水炉で使っていくとあと六十余年で枯渇するといわれており、そのため原子燃料サイクルの確立が急がれている。
また一方では太陽光、風力、地熱など新エネルギーの開発、省エネルギーへの取り組みなどが行われているが、当面はやはり安全を大前提にしながら原子力に頼っていくことになるのではないかと考えている。

―福井県は、わが国のエネルギーで重要なウエートを占める原子力発電所の最大の立地県だが、その現状について。

 西川 ご指摘のように、福井県はわが国のエネルギー確保に先駆的な役割を果たしている。
原子力発電立地県のパイオニアとして自負している。福井県では現在、原子力発電所が十五基設置され、そのうち十三基が稼動している。
総発電量は一時間あたり約九〇〇億キロワットで、日本の原子力発電電力量の三一%を占めており、福井県の発電量は関西地区の消費量の六〇%を占めている。そうした原子力発電立地県として、原子力行政にあたっては、「安全が確保されること」、「住民の理解と同意が得られること」、「地域に恒久的福祉がもたらされること」の原子力三原則を基本に、とりわけ県民の"安全・安心"を最優先に対処し、合わせて原子力発電所が県内産業の振興と地域の恒久的発展に結びつくよう取り組んでいる。

 児嶋 福井県には若狭湾エネルギー研究センター、原子力安全システム研究所、サイクル機構国際技術センター、原子力発電訓練センター、そして関西電力の原子力保修訓練センターと五つの原子力に関する教育・研究センターが設けられていて、原子力の安全維持、技術研究の集積地になっている。
また、県や大学でも安全に関する研究や安全維持体制に取り組んでいる。
福井大学でも来年四月に大学院「原子力・エネルギー安全工学専攻」を新たに設置して、原子力安全の高度専門職業人の育成に取り組むことになっている。
県内には原子力にかかわって働く多くの人がいるが、原子力関連産業としては、保修が中心で、たとえば自動車産業のように周辺産業が多くあるという状況にはない。これはこれからの課題でもある。

 三宅 私も福井県は原子力に関する安全教育・研究の先端的拠点になりうる用件がそろってきていると考えている。
原子力に対する理解を得るためには、子供のころからの教育が大切だ。
しかし、いまの教育の現状からすると、学校教育だけでは難しい。
大学の立場から言うと、学生が卒業して地元の原子力関係の分野に入り、活躍してもらってより正しい知識が浸透していくという構図が最も望ましいのではないかと思っている。

 佃 はじめに、電力を供給する事業者としての関西電力の取り組みを紹介したい。
現在、当社では原子力発電所の安全・安定運転に全力で取り組むとともに、近年は、石油に比べて約一〇%程度CO2の排出が少ない液化天然ガス(LNG)の利用を高めている。
また電力を利用する側に立っての取り組みとして省エネ効果が高いヒートポンプの普及、蓄熱式の熱利用を推進している。
また、まだ研究段階だが、地球温暖化防止の観点から、火力発電所で排出されるCO2の回収・処理にも取り組んでいる。
一方、福井県においては、大阪で開催された日本万国博覧会会場に美浜発電所1号機の電気を送ってから三十三年が経った。
そして現在、福井県では当社の社員が千五百人、関連企業を入れると六千六百人が原子力にかかわりながら働いている。過半数は地元の人が占めており、当社の発電所は若狭地域のみなさんに「地元の企業」として受け入れていただいていると思う。

―原子力発電立地県として抱えている問題点や課題について。
特に"安全・安心"に対する取り組みや理解を得る作業、また地域産業の振興という観点からうかがいたい。

 西川 県としての原子力にかかわる具体的な課題としては、核燃料開発機構の「もんじゅの運転再開」、日本原子力発電の「敦賀三、四号機増設」、関西電力の「プルサーマル計画実施」問題を抱えている。まずはこれらの安全性の確保が図れるかという見きわめと地元住民の理解を得ること、そしてこれらをどう福井県の産業振興に結び付けていくかが大事だと思っている。このうち安全性確保の問題については、現在、原子力安全委員会、原子力安全保安院などの組織があるが、原点に立ち返って信頼性確保にしっかり取り組んでもらいたい。
理解という面では、長期的な観点から言うと、原子力に対する国民の理解や知識を得るための教育の大切さを感じている。

 児嶋 原子力産業のキーポイントは安全教育にある。
原子力に関する安全教育としては、一つは安全・安心に対する理解へと教育と、もう一つは安全を維持確保するための教育、研究がある。
一つ目の教育は子供のころからの学校教育を中心に原子力に対する理解を得るための教育であり、後者は専門技術教育を通しての人材育成だ。
先ほど福井県は原子力産業の安全性確保のための技術研究の集積地になりつつあると申し上げたが、産学官が連携していかにこれを真の原子力安全教育・技術研究のメッカに仕上げていくかがこれからの課題だと考えている。
その点で、関西電力が福井県に「原子力安全システム研究所」を設置して高度な技術研究を行うとともに、ヒューマンエラーをなくすという見地から人文科学的な研究も合わせて実施していることを高く評価したい。もう一つの課題は、原子力関連産業の育成だ。
これも先に申し上げたように、目下は保修産業が中心で、自動車産業のように原子力も周辺産業を育て、県の産業振興に結び付けなければならない。

 三宅 福井県を原子力の教育・研究のメッカにすることは私も同感だ。
大学の立場で言うと、卒業する学生が原子力に対する的確な知識をもって社会に入り、指導者として特に地域に根ざした活動をしてくれることが望ましい。
教育の目標としてもこのことを掲げ、活動していきたいと考えている。
また、地域の指導者という点では、関西電力の社員の方も原子力の安全問題についてはさまざまな知識、技術を持っており、地域の先生になり得る。
特に産業振興という観点から言うと、関西電力やサイクル機構国際技術センターなど福井県にある各研究・研修機関は、原子力に関するさまざまな技術、知識を持っており、これを地元企業の活性化に結び付けたいと考えているが、現実にはなかなかそのマッチングが進んでいないのが現状。
何とかその交流の場ができないものかと考えている。

 佃 当社は一九九一年に美浜発電所2号機で蒸気発生器の事故を起こして以来、安全問題については徹底的に研究し教育してきた。
そうした技術、知識の蓄積や、若狭湾エネルギー研究センター、サイクル機構国際技術センターなどの研究所などから出てくる新技術を活用して地場産業の発展に結びつけていくようにしていかなければならない。

―原子力に対する理解の推進という意味では、『福井県環境・エネルギー懇話会』がさまざまな活動を展開している。

 児嶋 懇話会は、今年設立五周年を迎えられたが、この間一貫して環境とエネルギー問題の啓発活動に真正面から取り組んでこられた。最近は私ども学校教育の振興にも力を貸していただいている。

 佃 懇話会さんはセミナーや講演会、展示会などを通じて、原子力をはじめ環境・エネルギー問題に対する理解の推進活動を実施してもらっており、私ども電気事業者としては非常にありがたい存在だ。
私どもも協力できることがあれば今後とも連携してやっていきたい。

――最後に、それぞれの立場から、原子力発電立県・福井からの提言を。

 佃 福井県には、原子力発電所立地県のパイオニアとして引続き、がんばっていただきたい。その意味で「もんじゅ」が一日も早く運転再開され、高速増殖炉による原子燃料サイクルも、福井県で最初にはじまることをを願っている。
また、福井県が世界の原子力安全教育・研究の発信基地になり、原子力の関連産業が育つことを期待したい。われわれもそのための協力は惜しまない。

 三宅 今後ますます地方分権が進むだろう。
その際の福井県のよりどころはエネルギーの生産県ということになる。エネルギー、なかでも重要な地位を占める原子力についての高度な知的財産の集積は、地方の特色を出すうえでの大きなポイントだ。
この特色を生かして、福井県に原子力の安全教育・研究に関する拠点を設けることは賛成だ。
最近OECDが中心になって「世界原子力大学」が創設されようとしており、また韓国が「アジア原子力大学」の設置の名乗りをあげているようなことが伝えられているが、わが国福井県でも、ぜひそうした知的活動を通して産業の振興が行われるとよい。
例えば原子力関連産業の振興についていえば、「産学共同研究センター」のようなものを創設して、大学が間に入って相互のニーズやシーズを紹介し、マッチングを図っていくということも考えられる。

 児嶋 エネルギーの根本的解決として、高速増殖炉による原子燃料サイクル技術の確立は欠かせない。
長期的な視点に立って先行投資すべきテーマだと思うし、原子力発電立県・福井こそがこれを進めるべきだと考える。
また、福井県環境・エネルギー懇話会の江守幹男会長が提言されているように、福井県を『アジアにおける原子力安全教育、技術の研究開発拠点』とすることは大賛成だ。
現在設置されている五つの教育・研究関係の施設を中心に、さらに研究機関の誘致をはかり、これに地元行政や大学、産業界が加わって産学官連携により拠点実現に協力していきたい。
来年、福井大学に「原子力・エネルギー安全工学専攻」を開設することは先に申し上げたが、これも、江守さんが提唱されているアジア、さらには世界の原子力に関する安全教育・研究のセンターづくりに貢献できると考えている。

 西川 行政の立場からいうと、国の政策に電力立地県の声を反映させていきたい。
そのためにも原子力立地の関係知事とエネルギー担当大臣との政策協議の開催が望まれる。
原子力に対する国民の理解をいかに取りつけるか、立地県としての努力は惜しまないが、国としてエネルギー戦略についての国家としての明確な責任を示してもらいたい。
 また電力消費地と生産地の関係についても考えていかなければならない。
大消費地は供給地をどう評価するのか。
今年六月には、全国二千カ所でライトダウンキャンペーンを実施、エネルギーの大切さを訴えたが、さらに今後毎月決められた日に消灯するとか、原子力施設を見学してもらうとかの取り組みも必要だろう。
教育に関していえば、教育用の原子炉を設置してリアルな体験をしてもらうことも大事だ。
福井県環境・エネルギー懇話会が中心となって提案している産学官協力による原子力の安全教育・研究拠点づくりは県としてもぜひとも協力していきたい。

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