【トピックス】

読売新聞に〔論点〕に掲載されました。

地方版マニフェストの意義

出所:平成15年8月8日(金)〜読売新聞 論点〜

 今春の知事選で、政策公約に具体的な数値目標や実現の期限を入れた「マニフェスト」を掲げ、初当選した。何人かの知事と並んで、マニフェストを掲げたのは、こうすれば県民が私の考えや主張を判断でき、今後、私の政治家としての実行力を評価できるようになると期待したからだ。
 現在、国政の場でマニフェストが話題になっている。与野党がマニフェストを掲げて選挙に臨むことは、政党が政権を獲得した時の具体的な政策を前もって示すことになり、政党政治の活性化につながるだろう。
 これに対し、地方政治の首長選でマニフェストを掲げる意義は、実現可能性のある政策を示すことで、スローガンだけの選挙から政策本位の選挙に転換することにあると考えている。
 私は当選後、マニフェストを確実に実行するため、部局長との間で、マニフェストの内容を盛り込んだ「政策合意」を交わした。これは、各部局長が具体的な目標を設定し、責任をもって成果を上げるためのものだ。各部局長がこの内容以上の成果を目指すことを期待している。
 知事という位置が最近になって変化しているように思う。
 戦後の地方自治の歴史を振り返ると、一九五〇年代ごろまでの知事は、官選時代の色が残り、住民とは一線を画した存在だった。高度成長期になり、大都市で革新自治体が誕生すると、知事は住民に直接選ばれた存在であることを改めて重視した。その後、革新自治体が消え、知事は各党相乗りで政治対立を避けるのが主流になった。
 いま再び、時代は変革期を迎えている。右肩上がりの経済成長が終焉し、住民の意識も成熟した。自治体改革の時代である。知事には、改革を進める指導力や、「あれか、これか」という政策の選択と決断が求められている。この時期にマニフェストが日本の地方政治に導入されることになったのは、歴史的にも必然性があると感じている。
 マニフェストを掲げると、これまでより政策形成の速度が増す。知事がビジョンと政策を明確に示すので、職員はすぐに政策の企画立案ができる。従来なら、一年以上をかけて中長期計画を策定し、その上で目玉事業の予算化を検討していた。
 ただし、様々な課題もある。まず、職員との関係だ。知事は政治家として県民と接して感じた問題意識をもとにマニフェストを作成するが、職員が知事と同じ問題意識を共有するには時間がかかる。職員が意識改革を進め、現場の声を直接聞く機会を多く持ち、知事と職員が対話を深めることが今まで以上に必要になる。
 知事がマニフェストを掲げるということは、政党のマニフェストが政党全体で責任を分担するのと違い、実行責任は知事一人が負う以上、庁内の変革と職員の意識改革は非常に重要だ。
 また、地方政治のマニフェストには、財源や制度の問題もある。国は税財政制度を決定できるが、地方には税制や補助金と交付税のあり方を改革する決定権がない。自治体が本格的な財源を作ったり大型プロジェクトを進めるには、国の制度の中で考えなければならないという制約がある。
 だからこそ、今後は国に分権を求めて、「歳入の自治」「決定権の自治」を広げていく必要があると考えている。
 また、知事が住民に直接約束したマニフェストを実現する過程では、議会と緊張が生まれることも考えられ、県議会の理解を得ることが必要になる。
 このように、マニフェストによる政治には課題も多い。だが、マニフェストが地方政治を活性化させる意義の方がはるかに大きい。マニフェストを実現していくことによって、地方政治で始まったばかりの新しい試みを成功させたいと思っている。