【トピックス】

これは、大霞会(会長:鈴木俊一 元東京都知事)発行の会報「大霞」
平成17年初夏号に掲載された知事の寄稿文です。

なぜか長寿。 −健康長寿の福井−
 

福井県知事 西川 一誠

つい最近、世界各国の平均寿命が発表されたが、ずっと変わらず我が日本が世界一である。その日本において、福井県は男女がともに平均寿命第2位であるので、我が県は日本のみならず世界を代表する長寿地域であると言ってもよいであろう。私はこのことを大変素晴らしいことと思っている。また、福井の一番の売りにもなると思っている。
私は、マニフェスト「福井元気宣言」を実行し、長寿県福井をさらに確固としたものにするためにいろいろなことにチャレンジしている。福井県民がなぜ長生きなのかについて関心を持ち、「なぜか長寿。」を解明できるよういろいろと検討を進めている。今回は、それについて少しお話ししたい。

昔から長寿県?
福井県が昔から長寿県だったのか、というと実はそうではない。都道府県別の平均寿命は大正後期から計算されている。それ以前は不明であるが、大正後期の福井県の平均寿命をみると37〜38歳程度となっており、男性が44位、女性が46位であった。平均寿命の一番長い県(当時は男性・宮崎県、女性・沖縄県)と比べると、実に10年以上の差があったのである。
なぜ、こんなに短かったのかは定かではないが、厳しい労働、貧しい食事、不衛生な環境、結核のまん延などが影響していたと言われている。北陸地域ではとりわけ結核の死亡率は高く、当時の最大の課題だったようだ。これは気候や風土に起因するのではなく、都市の工場への出稼ぎによって結核に罹った人達が結核の未感染地であった農村に帰郷し、爆発的に拡大したためと記録が残っている。平均寿命が算定されるようになった時代に、たまたま結核が大流行してしまい、結果として短命県という地域になってしまったようだ。
戦後になって、活発な経済活動や積極的な保健衛生施策が展開されるに伴い、福井県の平均寿命は着実に伸び、全国順位も改善されていった。
その結果昭和50年以降、男性は常時上位10位以内を占め、女性の方も昭和55年以降、全国平均を上回るようになった。昭和50年代頃から長寿の兆しが見え始めたのである。そして、長寿化が進み平成12年には男女ともに第2位になったわけである。男女の片方が長寿な県はあるのだが。

福井県は、なぜ長寿
ところで日本が世界で一番長生きの国であるのかについては、以下の点が指摘されている。すなわち、他の諸国と比べて、「医療などの社会保障基盤が充実している」、「勤労意欲が強い」、「貧富の差が少ない」、「健康に関する関心が高い」、「食事などを含むライフスタイルが健康的」などの理由である。
なるほど、その通りだと思うが、福井県でたくさんのデータを基に調べてみたところ、日本のみならず福井としてさらに優れている点が多く見つかった。主なものを紹介しよう。

(食と長寿)
まず「食」について福井県には次のような特徴があるということがわかった。
1 お米を中心としたバランスの良い食事
2 塩分が比較的控えめ
3 いも類や豆類をよく食べる
4 脂肪の摂取量・質ともに良好

もう少し補足すると、一人当たりのお米を食べる量、いも類を食べる量は全国1位、豆類は全国5位となっている。また、高血圧と関係のある塩分摂取は低い方の県から数えて全国9位となっている。脂肪についても日本海の新鮮な魚からとり入れる脂肪の割合が全国平均より多いのである。
福井県の脳卒中の死亡率は、男性が全国一低く、女性は二番目に低いというデータがあるが、これは福井の食生活を反映した結果ではないかと思う。
こうしたことは普段の生活ではなかなか気付かないものだが、主食やおかずの良さを見るとうなずけるのである。例えば、すぐれたお米の代名詞となっているコシヒカリは福井県が発祥の地であり、ハナエチゼンや、また昨年からはイクヒカリという品種も誕生している。福井産のお米を福井のうまい水で炊いたご飯は実に美味であり、食べる量も自然に増えるのだろう。それから、豆腐など大豆加工品もよく食べられている。これにはできるだけ自然に近い水が必要であり、福井の清らかな水で作られた豆腐は大変美味しい。油揚げやがんもどき等の消費も全国一である。
また、福井には沢山の特色のある名物があるが、これらも健康を志向したものが多いと思っている。大根おろしのだし汁をかけて食べる「越前おろしそば」は、福井県では広く普及している。もともと健康に良いソバに加え、大根には消化を助ける成分が入っている。ま
さば
た、鯖をそのまま姿焼きにした「焼き鯖」が、県内に広く普及している。夏季の農作業に疲れた農民の栄養補給として、サバを食べることを昔の殿様が奨励したとの記録がある。
やもりゆきお
昨年、県で健康長寿をテーマにしたフォーラムを開催し、京大名誉教授の家森幸男先生に講演をお願いした。食と長寿の研究の第一人者である先生は、こんなことを話された。
「お米でエネルギーを摂っている場合、血液中のコレステロールが高くなりにくい。また、大豆に含まれる物質は骨粗しょう症を防ぐし、魚の脂肪に多く含まれる物質は動脈硬化を防ぐ。だから、長寿のためには、お米や大豆を良く食べ、恵まれた海の幸をバランスよく摂り、そして、塩分を十分に控えることが大変重要である。まさに、福井の食事は、長寿に必要な要素が揃っている」と。
福井県は食べ物(食材)も食べ方(料理法)も、総じて健康長寿に良いと言うことだろう。

(体と心の健康と長寿)
さて、「食」の次に「健康」はどうか。
体の健康については、福井県は車社会であり、県民の歩行数を調べた調査では、あまり人がよく歩く地域ではない。また、自分が健康であると思っている人も特に多いというわけではない。だが、日頃健康のために何かをやっている人達の割合は、常に全国より上回っている。これは、県民の健康意識が高いことを表しており、そのために健康が維持できているのではないかと思う。一方、医療機関に通っている人の割合は逆に全国値を下回っているのである。
では、心の健康についてはどうだろう。福井県は、悩みやストレスを感じている人の割合が、全国より少ないようである。明確な背景は今のところわからないが、「経済的な蓄え」、「良好な住環境」などが大きく関係しているのではないだろうか。
ご存じの方は少ないと思うが、福井県の一世帯当たりの貯蓄額は全国1位、また、一人当たりの郵便貯金残高は全国5位となっている。これは不測の事態に備える県民の気質によるものかもしれない。将来や老後における収入について不安を感じる人の割合は全国一低く、こういった気風は心の健康にも良い影響を与えていることだろう。
住環境面では、持ち家率が高く家が広い。これは、ゆったり暮らせること、三世代「同居」あるいは「近居」で暮らせること、好循環としてつながるだろう。特に三世代で暮らせるとなれば、共働きしながらでも親の支援を受け、子育てができるというメリットがあり、子育てについての障害が少なくなる。良好な住環境は、心の健康にもつながるというわけだ。
じょうどしんしゅう
歴史的にも北陸地方は浄土真宗が盛んな地域で、真宗王国とも言われ、こころ安らかな土
さんもんとやまもとじょうしょうじ
地柄とされている。特に本県には真宗十派のうち、京都と並び三門徒派、山元派、誠照寺
いずもじ
派、出雲路派の四つ宗派の本山がある。人口当たりの寺社数も全国2位となっている。禅宗
えいへいじ
である曹洞宗の本山である永平寺もある。宗教と健康長寿との関係、特に心の健康という面はこれから興味深い大きなテーマになるだろう。

(医療・福祉と長寿)
さて、続いて「医療・福祉」についてはどうか。
以前は旧経済企画庁が県別の国民生活指標を発表し、福井県は多くの生活領域で高い評価を示していた。特に癒す(医療、保健、福祉)という生活領域では全国1位となっていた。現在も人口当たりの病院数は全国10位、人口当たりの救急告示医療機関数は全国1位となっている。また、最近、がん治療を行う病院の調査を民間機関が行っているが、この調査で県内のがん治療の基幹病院は高い評価を受けている。このように現時点においても福井県の医療や福祉分野の水準は良好であり、これらも県民の長寿を支える一つの基盤となるであろう。
最後に、福井県にゆかりがあり、健康や長寿に関係ある歴史的人物を二人紹介したい。
すぎたげんぱく
一人は小浜藩医として「解体新書」を完成させ、近代医学の祖とされる杉田玄白である。江戸時代において85歳の長命を全うし「養生七不可」を晩年書き残している。昨日までのことは後悔しない、明日以降のことも心配しない、飲食は度を過ぎない、楽せず適度に動くこと、などの養生哲学がそこに盛り込まれている。これは現代にも通ずるものである。
いしづかさげん
もう一人は石塚左玄である。福井藩(現在の福井市)に生まれ、幕末から明治に活躍した食医で、今盛んに言われている「食育」という言葉を日本ではじめて使った人である。また、食養長寿論といった考え方をまとめている。これは簡単に言うと、自らの住んでいる地域で収穫された食べ物を、可能な限り食することが健康ために重要だという主張である。
福井県民が長寿なのは、こういった養生食育の精神が昔から根づき、現代に受け継がれていることが環境的な理由かもしれない。
いずれにせよ、こういった福井の優れた点を活かして全国一の健康長寿県を目指したい。

会員の皆さんには、どうか健康長寿を目指されますよう願っています。そして是非健康長寿の謎解きに福井にいらっしゃって下さい。

「大霞」初夏号(平成17年6月)寄稿