【トピックス】

月刊 「官界」平成16年1月号より転載

「地域プライド」をめざして


福井県知事 西川一誠

「福井はどこ?」
 

 教科書出版社が小学生の高学年を対象に47都道府県名と場所をどれくらい知っているか調査した。最も正解率が低かったのは、我が福井県であった。地形に特徴があったり、教科書に記述が多いとその県は覚えやすいという傾向もあるようだが、名前が似ていたり、近接している県も混同されやすいとの結果も出ている。
 県内では、この結果を残念に思う声もある一方で、何ら気にしないという雰囲気もないではない。「もっと知るべし日本」、学校教育の問題と言う人もあろう。
 しかし、イメージ・アップにこれまで相当の予算と努力を費やしてきた福井県にとって、やはり一つの反省材料とすべき結果である。
 そして、最も知られざる福井県は、最もこれから知っていただける可能性のある県である。よくぞ最下位であったと、希望を持ってイメージ・アップ戦略再構築の契機としたい。
 ところで、あるモノについて考える場合、今回のように知名・理解のレベルがまずあろう。その次にイメージのレベルがあるのではないだろうか。県のイメージ・アップ以前の問題として、まず福井がどこにあり、どのような県なのか、つまり事実を知ってもらうこと、「知名度」や「理解度」を上げることが基本となる。
 そして次にイメージアップである。イメージの支配領域は、マーケティングの世界では、「商品イメージ」からCIなどの「企業イメージ」へと展開してきた。最近では「地域イメージ」へと拡大し、さらには、選挙など政治の分野でも重要な役割を果たすようになっている。
 これらいずれの領域においても、「広告」ないしは「宣伝」が主な手段となる。知る人ぞ知るということはありえても、桃李言わざれども自ら径を成すという訳にはいかない。
 では宣伝は何をしたら有効なのか。結果はどのように評価測定したらよいのか。定量的な評価は企業においても困難である。まして地域のイメージ・アップまでを含めた議論となると、ことは一層難しい。

イメージ・アップの視点
 思うに、宣伝は大切なツールではあるが、これが決して全てではない。
 では、地域のイメージ・アップ戦略は何を基本として進めるべきであろうか。
 まず、イメージを支える「実力」という実体の蓄積こそ、もっと大切であることを念頭に置くべきであろう。「名物に旨い物なし、名所に見処なし」の諺は世に評判倒れが多いことを戒めている。
 また、イメージ・アップは、一方的、単発型ではなく、顧客への価値提供という繰り返しの双方向の関係を作ることが必要である。地域のビジネスにつながる関係があれば、もっと長続きする。モノやサービスを一過的な手法で売り込むことでは決してないのである。
 これからは特に、人々のネットワークがイメージ・アップにおいて有効な手段となる。時代は成熟化し、消費者の欲求は以前のように強くもなく、明らかでもない。微妙な差別化や個人化などによってその地域の比較優位をいかに確立するかである。観光においても、マスツーリズムは終り、普通の人達のホスピタリティが地域のよいイメージとして来訪者をとらえる。そこでは、住民すべてがアマチュアのセールスマンとなる。

「ブランド」から「プライド」へ
 イメージが評判、人気のレベルにまで高まり、「ブランド」として定着、発展すると名声の力を発揮する。地域自体が強いブランド力を持つことが、地域のイメージ・アップの究極の姿と言えよう。
 ブランドは、単なる買い手側の嗜好に依存して生じるものではない。経営者(自治体)の理念、個々の製品としてのより良い品質、またブランドとして育てようとする絶えざる熱意、マーケティングの努力などが相まって作りあげられる。
 それぞれの地域には、個々の企業、産品、観光地、人々の業績など地域資源としてのブランドの集合群がある。これら個別ブランドのマネジメントに加えて、地域それ自体の総合的なイメージを明確化し、多層的な「地域ブランド」マネジメントを図ることが、これからの地域行政の先駆的な仕事となると考えている。
 地域の知名度を上げ、観光誘客を行い、人材、企業誘致を進める。こうした地域のブランド化の目指すものは、少し理屈的に言えば、外部的な効果であり地域から見ると外向きの機能である。
 一方、こうした地域のブランド化は、人々の「ふるさと」意識の下で行われるのが通常である。そして、その活動自体が住民として地域の固有の価値を意識し、地域住民のアイデンティティの共有と強化の働きを有している。これはブランドの内向きの機能と言うべきものである。
 地域のブランド化は、地域の持つ優れたポテンシャリティをイメージ・アップの諸活動を通じて、名声としてのブランドにまで高める経済政治的な活動である。それが地域の産業的な価値と評価を生み出すと同時に、究極的には地域の人々に自信や誇りという政治的価値を生み出す役割を果たすことになる。
こうしたダイナミックな進化サイクルにより「地域ブランド」は「地域プライド」に飛躍し、「地域プライド」はさらなる次の「地域ブランド」を生み出すパワーの源泉となるのである。
 地方分権時代における地方自治体経営の最終目標、つまり、20世紀型の単なる受動的な満足から21世紀型の外に開かれた誇りと地域の自立こそ、これからの地方政治の目指すべき姿ではないかと考えている。
 論語に次のような句がある。「己を知ること無きを憂えず、知らるべきを為さんことを求む」

※この記事は、月刊 「官界」の許可を得て転載しています。