平成20年10月15日(水)に行われた「若手ふたば会」に出席し、「ふくい産業の活力創造」と題して、県内の若手経営者の方々に対して、講演を行いました。

 ご紹介いただきました西川でございます。本日は、県内企業(北陸銀行関係)の若手経営者や後継者の方々のお集まりである「若手ふたば会」にお招きいただきました。「ふたば」の上に「若手」が付いているということで、名前からいたしましても随分と若い方々の集まりだろうと思いました。1月ほど前に敬老会に出席いたしました。県内では百歳を超える方が年々増えていらっしゃいまして、10年程前にはそれほどいらっしゃらなかったのですが、現在は9月30日時点でおよそ3百人いらっしゃいます。皆さんはまだ30代、40代ですので、少なくともあと50年は頑張っていただけると思います。

 今日は「ふくい産業の活力創造」という題で、産業や子育ての話を中心にお話いたします。

 先週末に株価が大きく値を下げた瞬間に、県庁では各部長を集め、ただちに県内の中小企業の情勢を把握し、福井県として何をすべきかを検討するよう指示しました。とにかく企業の皆さんがシュリンクしないことが大事でありますので、北陸銀行をはじめ県内各金融機関の代表の方々には、いわゆる貸し渋りをしないようにと僭越ではありますが申し入れをいたしました。
 また、二階経済産業大臣に私からも直接電話をいたしまして、企業の皆さんが不安に陥らないように金融庁と協力して早急に中小企業対策を実施して欲しいとお願いしました。大臣は、近々、福井、大野、敦賀などに経済産業省の担当官を派遣し、地方の様子を聞きたいとおっしゃっていました。
 日本銀行にもお聞きしたところ、「福井県の金融機関は体質がしっかりしているので、企業に対してもきちんと対応されるはず」とのお話をいただきました。
 行政としましては、「金融をどうする」、「企業の経営内容をどうする」とかはできませんので、皆さんからいろいろなご意見をお聞かせいただいて、県としてできることを速やかに実施したいと思います。

 ところで、昨日、2008年のノーベル経済学賞が米国プリンストン大学のポール・クルーグマン教授に授与されることが決まりました。米国人の受賞は9年連続とのことですが、ここしばらくの経済情勢によって、今回はこの方に決まったのかなと思います。
 かつては、フリードマンやハイエク、トービンといった「マネタリスト」と呼ばれる経済学者が受賞されていましたので、世の中が変わって市場主義や新自由主義という考えが少し下火になったのかという印象です。道州制論もこのような米流タイプの経済学の思想が根本にあるような気がしますので、道州制論の問題点について深く考えるべき良いきっかけだと思います。

 さて、今回の金融危機は、日本が経験した「失われた15年」という厳しい試練がさらにスケールを大きくしたものかと思います。
 銀行としては、信用を確保することが最大の課題であります。幸い日本の金融状況は欧米と比べると安定していますが、銀行の皆さんには、緊張感を持ってしっかり対応していただかなくてはならないと思います。自己資本の不足を解消することが最大の課題であり、この時期には流動性資金の供給も重要であると思います。日本銀行は、毎日数兆円のお金を市場に供給しております。
 「失われた15年」の間に、期間はかかりましたが、日本が行ったことは次の3つです。1つには預金者の保護、2つには不良債権の切り離し、そして3つは公的資金の注入です。日本はアメリカと違って、この公的資金の注入を自国だけで行い、どの国の助けも借りておりません。今回の金融危機では、アメリカは全世界から助けを借りて公的資金の注入を行っていますので、これは大いなる問題だと思います。
 いずれにしても、今回の金融危機への対応は、日本で実行された先例が、世界にとっても70年前の世界恐慌よりも身近な教訓として有益であり、このような事例を国際的に活用することが重要です。

 地方自治体としましては、地域の銀行と力を合わせて、このような事態に対処しなければなりません。すでに総合的な融資制度を用意し、融資期間の延長や借換え、融資枠の拡大などが可能になっており、またコストダウンや省エネ対策など新たな状況に対応するための融資も用意しておりますので、必要に応じてご利用いただきたいと思います。
 当面の施策はただ今紹介したとおりですが、本県の産業が次の段階に進むことができるように政策を行わなければなりません。
 知事に就任してすでに5年が過ぎましたが、就任当時は失業率が4%くらいで、有効求人倍率も1を割っていました。そこで企業誘致など雇用に関する施策を行った結果、失業率は2%台に下がりましたし、有効求人倍率も1.4倍ぐらいに上昇しました。
 「次の段階に進むことができれば」という時期の再びの危機です。実体経済にも影響を与えていると思います。間もなく、新しい福井版の経済戦略会議を再度立ち上げて、次のステージに進むための政策を立てなければならないと思いますので、いろいろな機会を通してご意見をいただきたいと思います。

 次に、産業基盤の整備の話であります。一口に産業基盤と言いましても、道路であったり、港湾であったり、新幹線であったり、皆さんの企業にとっても良い影響がある企業誘致であったりと、さまざまなことが考えられます。

 新幹線については何としても年内に方針を出してもらう必要があります。富山や石川については東海北陸道が開通したのですから、中部縦貫自動車道も進めていただかなければなりません。これは行政・政治の重要な仕事ですし、国会議員の皆さんにもさらに頑張ってもらって県内一丸となって努力していかなければなりません。

 従来、「財政出動」や「公共事業」というと、次には「ばらまき」とか「選択と集中に欠ける」などという批判が起こりがちです。しかし、日本がまさに新しい時代を迎えようとしているときに、真に必要な基盤整備は決してばらまきなどではありません。国土を結ぶネットワークが途切れたままでは日本の国力が上がりませんので、当然に進めるものだと思います。

 最近、わが国の鉄道整備について気になる話題があります。東京と名古屋の間にリニア中央新幹線を整備するとか、東京と成田を結ぶ都市鉄道を数千億円かけて造るということです。いずれも悪いことではないとは思いますが、優先順位というものがあってしかるべきだと考えております。

 最近、経済学者の中には、大都市に投資を集中させて海外主要都市と競争して発展させれば、地方は観光などで元気になるから良いだろうという議論がありますが、それはおかしいと思います。また、法人税率を下げればよいという話もありますが、一律に下げた場合に、わが国の財政を正常に運営できるのかという思いがあります。
 むしろ地方への投資に対する減税を行うなど、国土政策と民間投資とを組み合わせて考えることが良い政策だと思います。二階大臣に申し上げたところ、ウーンとおっしゃっておられました。本県が提唱した「ふるさと納税」も、このような経緯で実現したものです。このように福井県からいろいろな提案をして、フットワークよく仕事ができるように努力していきたいと思います。

 産業振興施策の中で、現在、直接的な取組みとして行っていることは県外大手企業との現地商談会で、全国に先駆けて行っています。既に、平成18年11月にはトヨタ自動車、19年11月には伊藤忠商事、20年2月にはデンソーとの間で商談会を開催いたしました。
 今後は11月14日に建設機械大手のコマツと大阪で開催します。また同じく11月20日・21日には静岡県のスズキ自動車、来年1月にはシャープと展示商談会を開催する予定です。ここにお集まりの皆さんがお持ちのモノ作りの技術を紹介いたしますが、できれば参加していただいて情報交換していただいたり、ネットワークづくりに役立てていただきたいと思っております。

 企業誘致は、これから全般的に厳しくなると思いますが、新幹線や高速道路の整備は必ず福井まで延びるという前提で、土地の整備や敦賀港の整備あるいはテクノポートの見直しなどを進めていきます。

 また、皆さんの企業に若手の優秀な人材に来てもらうことを強化していかなければなりませんので、ここ数年、「新ふくい人の誘致」といって努力しています。
 福井県から県外の大学に進学するために毎年3千人くらい進学していますが、実際に4年経って戻るのは1千人くらいという現実があります。できるだけ多くの人に戻ってもらえるように、しかるべき時期に大学生の父母に対して、地元の優秀な企業を紹介しています。企業を経営されている方々は、福井の人は当然に県内の企業のことをよく知っているとお思いでしょうが、決してそうではありません。行政の立場で実感していることは、「こんなことは当然知っているだろう」と思っていることが、案外知られていないということです。例えば、福井空港の拡張整備については費用対効果が見込めないということで5年前にやめました。しかし、最近ある会合で、女性の方から「福井空港はまだできないんですか」と言われました。ことあるごとに「交通ネットワークについては新幹線と高速道路だ」と力説しているのですが、あまり伝わっていないようです。一事が万事で、行政の施策をいくら一生懸命説明しても、通常は3割くらいしか浸透しないのではないでしょうか。
 ですから、企業のPRについても、皆さんとともにわれわれ行政も行っていかないと、学生の父母にわかってもらえませんし、ましてや学生にもわかってもらえません。「実は福井の技」で紹介できるような立派な企業が数多くあるのに、何か話題にならないと知ってもらえないというのは、とても残念なことです。

 それでUターンやIターンの促進を一生懸命行っているのだと思っていただきたいのです。最近のUターンやIターンの状況について、各県のU・Iターンセンター等のまとめによると、福井県には平成19年度に170人の方に戻っていただいております。これは、平成18年度の99人からほぼ倍増しています。
 1番多かったのは北海道の387人、2位は山口県で172人、そして福井県が第3位です。富山県は第10位、石川県は第11位で、いずれも70人台であります。もちろん限界はありますが、県内の企業に優秀な人材が来ていただけるように頑張っていきたいと思っています。

 人材の話をしましたので、次は産業の話から若干離れるかもしれませんが、子育て中の若い経営者の皆さんですから、教育についてお話しします。

 4月に実施された全国学力・学習状況調査では、福井県の子供たちは昨年に引き続き2年連続で全国首位の成績でした。最近、この結果を分析した本が出ています。「47都道府県の子どもたち〜あなたの県の子どもを診断する」という本ですが、教育社会学者である著者が平成19年度の学力・学習状況調査をクロス分析したものです。通常、新聞で報じられている学力テストの結果は、小学校の第1位が秋田県で、中学校の第1位が福井県となっていますが、より詳細に分析して、全設問の7割以上正答した者の比率を都道府県別に見ますと第1位が福井県、第2位が秋田県、以下は富山県、香川県、石川県という順位になります。学力については、学校の先生の頑張りのほかに、環境が大事だとよく言われます。しかし、学力と生活水準との相関について、都道府県レベルでは明らかな関連は見られないようです。しかし、市町村ごとにみると密接な関連が見られ、やはり環境が重要だとわかるということです。
 では、子供たちの生活習慣についても少しお話したいと思います。
 小学6年生についてでありますが、「家の人と朝食を一緒に食べる」という子の割合は、福井県は全国第9位と上位にあります。
 また、「家で食事をするときは、テレビを全く見ていない」という子の割合も福井県は全国第6位であります。しかし、この項目について福井県が上位にあるといっても、わずか12%に過ぎないのです。最も低い秋田県が5.5%であるなど他県はもっと低いということですが、このように順位というものは相対的なものなので、例え順位が高くても、絶対的な良し悪しと関係がないということがわかります。
 さらに「家の人と夕食を一緒に食べている」という割合は第22位と中位にあります。これは共働き世帯が多いことが影響しているのかもしれません。
 「家の人と学校での出来事について話をしている」のは、福井県では37%ぐらいしかいなくて残念ながら37位です。
 しかし、もっと低いのは、「家の手伝いをしている」という項目で第45位で、中学3年生にいたっては全国最下位です。おうちの方が手伝いをさせることに関心がなく、勉強さえしていれば良いと思っているのかもしれません。
 ところで、人間の様々な才能や能力を見極めるものには2通りあると思います。1つは偏差値で、どこの大学の学部にどのくらいの確率で入れるかなど可能性を測るもので、これは福井県の子供たちは高いと思います。
 しかし、子供たちが「自分の偏差値ならば、どの大学に入れるか」あるいは「自分がどんな仕事に就けるか」を自己判断することは別の才能だと思います。7の能力のある子供が7のレベルの大学に入ることは良しとして、9の能力の子供が7のレベルの大学や仕事にしか就けないという状況は問題で、福井県の子供には意外に多いのではないでしょうか。福井県では「子供たちに手伝いをさせない」という傾向があるように思いますが、「勉強しろ」というだけでは、このような能力は育たないと思います。
 なお、「家の人と学校での出来事について話をしている」子供が、なぜ少ないかはまだよく分析ができておりません。

 また、「学校で好きな授業がある」と答えた子の割合は、小学生では全国第8位と上位ですが、中学生では全国第43位と大きく下がっています。周りが「勉強しろ」とうるさく言い過ぎて、子供たちが嫌になっているのではないでしょうか。

 それから、「学校で友達と会うのは楽しい」というのは、小学生は第9位、中学生も第12位といずれも上位であります。一方、先ほど紹介した本では、福井県はいじめの出現率が高いと指摘されています。いじめについて少し申し上げますと、福井県の先生方がまじめで、子供や保護者に詳細に聞き取りをしているため件数が急増したのだという話を聞いています。いじめが深刻な状況にはないということは、「学校で友達と会うのは楽しい」という項目が全国の中で上位にあることからもお分かりいただけると思います。この本には、このようなコメントはありませんので、福井県の子供たちは、いじめが多くて、ガリ勉で、手伝いをしないというふうに決して受け取らないでいただきたいと思います。

 また、福井県では予習や復習をしている子供の割合が日本一といっていいほど低く、例えば復習については、小学生が13%、中学生が9%といずれも1割くらいです。秋田県では小学生は45%、中学生も25%と割合が高く全国上位にあります。どうしてだろうと思って調べてみました。すると答えは簡単なことでして、福井県では宿題をたくさん出しているので、予習や復習をする暇がないということでした(笑い)。宿題をきちんとすることで、予習・復習になっているようです。日本一宿題の量が多いのが福井県かもしれないということですので、皆さんも父親としてぜひお子さんの宿題を見てあげてください。

 高校では学習内容も専門的、情報的になります。いささか様子は変わってきます。大都市では私立高校や塾など公教育と民間との競争が活発ですが、国公立大学に進学する子供の割合が日本一高い福井県では、公教育への期待が高いので、教え方を工夫してわかる授業をしなくてはなりません。
 福井県の高校生は理数教科が少し弱いと思います。中学生の数学の成績は高いのでやや矛盾しているようですが、そこを解決するのがわれわれの責務だと思っています。
 私が知事になってからは、先生に県外の大手予備校に教授法の工夫を見つけに行ってもらっています。
 また、大学入試センター試験で実力を発揮することが大事ですので、受験生が試験の時になるべく宿泊しなくて済むように、地元で受験できるよう準備を進めています。
 模擬試験も自分の高校で受けるのではなく、センター試験の受験会場で行うようにしています。例えば、県立大学でセンター試験を受験する生徒は、模擬試験のときに、実際に自分でバスに乗って県立大学に行くのです。そうすれば本番と同じ雰囲気を味わって、当日アガラないのではないかという考えです。些細なことですが、少しは効果があると思います。

 さて、今年、ノーベル物理学賞を本県出身の南部先生が受賞されることになり、とても喜んでおります。直接、シカゴのご自宅に電話してお祝いを申し上げたところ、福井県の小中学校で受けた教育が良かったとおっしゃっていました。奥さんとのお話しの中で「このようなことを子どもの頃に学校で教わったか」と聞くと、関西出身の奥さんが「教わっていない」と答えることが意外に多いとおっしゃっていました。福井の学校で受けた教育が現在のベースになっているということを、87歳になられて今なお実感されているということですから、福井の教育は伝統的に良いと言えると思います。
 サイエンス教育の充実については、ここ数年力を入れています。今年の夏には、ノーベル化学賞を受賞された筑波大学名誉教授の白川英樹先生にお越しいただいて、高校生の前で実験や抗議をしていただきました。高校生たちも大きな刺激を受けたと思います。
 また、秋には世界ロボットオリンピックのエキシビションマッチを福井で開催します。
 科学技術というものは産業の発展に繋がるものでもあるし、また道徳教育にも繋がるものであります。「生命を大切にしろ」とか「あれをするな、これをするな」というお説教だけでは道徳はよくなりません。世の中の仕組みとか自然の仕組みとかを理解して、はじめて人間との関わりがわかるのだと思います。教育の根っこは、やはりサイエンス教育ではないかと思っています。

 最後に、道州制について話をします。道州制というのは、住民の生活や政治の問題に大きくかかわります。日本はいまやとても国力が大きく、例えば九州はどこかの国と同じ経済規模だから、独立性を持たせて貿易や産業政策、税制などを自由にできるようにすれば、地域の産業が振興され、外国とも太刀打ちできると考えられています。
 しかし、この厳しい国際情勢の中、日本の国を10から12の独立したエリアに分けて、現実に外国と対抗できるのでしょうか。今般のサブプライムローン問題などは、北陸地域だけで対処できるでしょうか。東京であっても無理だと思います。やはり日本全体で対応しなければならない問題です。
 地域ごとに別々の税制を設けて、法人税は北陸は35%だったけれども、東北が30%にしたから、北陸も30%に下げなければならないというのはナンセンスです。
 米国の州やヨーロッパの国々の大きさは、大航海時代に重商主義をとって冨を得るのに適した大きさです。ですから米国も州単位で独立しても良かったのですが、それではイギリスやフランスと争うと負けてしまうので、苦労して連邦制をとったのです。
 いわんや、日本のように小さな国で、信長や秀吉、家康が苦労して天下統一を成し遂げた国をわざわざ分けようとしているのは奇異な考えだと思います。
 ましてや福井というエリアのことを解決するために、大阪や名古屋に行かなければならないというのも不都合です。福井のことは福井で解決すべきだと思いますし、仮に大阪や名古屋に相談しても相手にされないと思います。
 北海道では札幌はどんどん大きくなっていますが、どうしても周りは衰退の一途です。一方で九州では、福岡に若干人口が集中していますが、どこもそんなに悪くはありません。それぞれの地域が頑張っているということだと思います。
 個々の地域が頑張らないと経済はよくなりません。「州というものを作って独立させれば、国が発展する」ということは幻想であって、私は道州制に関しては消極的な意見です。現在の経済学の流れを見ても、このような考え方は衰退していくのではないかと思いますので、今後の議論の行方を見守っていただきたいと思います。

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